p氏の異常な愛情 または……

映画とか趣味とか色々。

ネタバレ抜きで『Ib』の紹介とか

 6回目。幾分ブログを書く事にも慣れてきたもので、昼日中に次は何の記事を書こうかしら、と考える事が増えました。自分がこれまで接してきた作品や、面白いなと思っていた事。勿論プラスの印象のみではなく、心に爪痕を残してきた作品だって。そんな中で何なら書けるか、何なら書いてみて面白いか、頭の中で記憶と照らし合わせた問答を続けます。作品達に想いを馳せる事は、目まぐるしく変わる日常の中ではついつい置き去りになってしまいがちです。このブログの開設は、彼らを思い出す契機として十二分に悪くなかったでしょう。

 きっと、貴方にとってもそんな作品達はいるはずです。不意に気になったら、たまには思い返してみてあげてください。作品も作者も喜ぶはずですから。

 


 頃合いですので本日のテーマを。 

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 ゲーム。

 


 私が本や作品について、しばしば擬人法的に記述する事があるのはお気づきの事かと。もっとも、これ自体は作品は作家自身の内側について切り離された断片であるから、という私個人の思想による所ではありますが。

 ではもし、それらが本当に意志や精神を持って行動するとしたら、どうでしょうか。そんなテーマについて取り扱ったゲームを今回は紹介します。


『Ib』


 例によって軽く作品の解説を。『Ib』は2012年にkouri氏によって制作されたフリーホラーゲームです。2014年にいくつかのEDを追加したVer.1.07が公開され、現在も作者ホームページから無料でダウンロードが可能となっております。(※Windows10では動作が不安定な場合があるとのこと。悪しからず。)

 


▲作者様公式サイト。

 


 まずはお恥ずかしながら、私の思い出話にしばらくお付き合いください。

 私がこの作品を最も遊んだのは、間違いなく高校生の時でしょう。当時私は文化系の部活に所属していたのですが、なんとまあ恵まれた事に、部室にはPCが設置されていた訳です。しかも、部室にはなかなか人が入って来ない。高校生、オタク、PC、半密室。これだけの条件を揃えられたオタク達が何もしないはずはなく、各々が家からフリーゲームや同人ゲーム、挙句には格ゲーと専コンなんかも持ち寄って遊んでいました。

 そんな中で私が持ち込んだ作品が『Ib』でした。

 ジャンルを問わず面白いものには貪欲なオタクが多数だったので、しばらくすると部室ではほぼ常時タイトル曲の『記憶』が再生される事態に。丁寧な作りにのめり込んだオタク達は全ED、加えて全ての収集項目の回収へ向けて熱意を燃やします。そうやって放課後、ただひたすらにプレイを続けました。一昔前の、懐かしい日々です。 

 今尚多くの人の心を掴んで離さない『Ib』。最初はその魅力の一端を担っているであろう、ビジュアルや雰囲気についてお話ししましょう。こちらの画像をご覧ください。

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 なんともまあ蠱惑的なものでしょう。暗闇の中、一人どこを見るでもなく佇むどこか暗い表情の少女。整った服装や、襟元に結われたジャボは彼女が裕福な出立ちであろう事を想起させるには十分です。そしてこの絵全体の雰囲気、とでも言いましょうか。少女を描く少しくすんだ色遣いも相まって、実にアンニュイな雰囲気を醸し出しています。オタク的な言い回しを敢えて用いるならば、大正義。『Ib』しか勝たんって訳です。

 更に評価すべくは、フリーゲームにしばしば見られる「タイトル画面に気合は入っているものの、実際蓋を開けてみればツクールで作った事がありありとわかる感じになってしまっている」という風潮に全く該当しない事でしょう。つまり、タイトルの雰囲気に惹かれたならば、最後までその世界観にどっぷりと浸って遊ぶ事ができます。これも本当にありがたい。

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出典:https://kouri.kuchinawa.com/game_01_ss.html

▲実際のプレイ画面。タイトル画面の雰囲気そのままにゲームをプレイできる様子が確認できます。

 

 さて、そのアンニュイな雰囲気を保ちつつ、ホラーゲームというテーマを演出するに際して選ばれた舞台は美術館でした。

 架空の作家、ワイズ=ゲルテナの展覧会が開かれている美術館へ、少女イヴが両親に連れられてやってくるシーンからゲームは始まります。展覧会を一人で見回っていると、突如の停電。そこに突然現れた赤い絵の具、或いは血で描かれる「おいでよイヴ」の文字に誘われる様にして、彼女は一人美術館の奥深く、地下へと足を進めていく……

 以上が大まかな導入です。 

 しかし、この美術館という舞台設定は非常に良いチョイスだな、と思うもので。想像してみてください、もし仮に、幼い頃に連れて行かれた美術館で一人ぼっちになってしまったら。きっと言い知れない不安感に襲われる事でしょう。自分より大きな彫像や、至る所にかけられた絵画の目線はじっとこちらを睨んでいる様にすら感じるかもしれません。『Ib』が今一度私達に教えてくれるのは、そんな幼心の心細さと、包み込まれる様なじんわりとした恐怖です。また、同じく美術館に迷い込んだ登場人物を除いて、このゲーム内に出て来るキャラクターは全てゲルテナの作品群である、という形でも設定は活かされています。

▲余談ながら、幼心に「美術館」という物に対するある種の恐怖を覚える原因になった作品。確かに今見てもちょっと怖い。

 作品群に対する凝り方にも目を向けておきましょう。登場する作品は名有り、名無しのものを含めておよそ90種類。それら全てが作者の手によって一から生成されていることが推察されます。更にどれ一つをとっても個性的で鑑賞に堪える作品達であり、正直なところ、アートブックがあれば欲しい!と思ってしまう程に完成度も高い。このゲームにおける収集要素として全ての美術品についての情報を集める、という要素がありますが、作品にのめり込むほどついつい集めたくなってしまうものです。

 この集める要素に対して、ゲーム的なシステムと設定の両立が為されています。先述の通り、主人公たるイヴ本人は少女です。ですから未だ知識に乏しいところがあり、彼女一人ではしばしば読めない漢字に出会う事があります。その為、難読漢字が含まれた作品は彼女一人では収集できないシステムになっているのです。それらの作品は美術館で出会う他のキャラクターと共に調べる事で回収出来るのですが、これがまた秀逸なシステムだな、と。この要素がある事で自身が操作しているキャラクターは少女であって自分自身ではない、という事を印象付けてくれると共に、このゲームはあくまで彼女の視点で進んでいる事を理解させてくれるのです。そしてその事実を確認した時、今自分は誰もいない美術館を子供1人で探索しているのだ、という不安がやって来ます。


 少し話は変わります。私の考えですが、ホラーゲームのキャラクターはなるべく恐怖に対して抵抗する力を持って欲しくない、と思っている節があります。私は今個人的に『BIOHAZARD RE:2』をプレイしているのですが、屈強な成人男性を操って敵MOBに対して容赦なく発砲や攻撃が出来る事の安心感たるや。残念な事に私の様なゲームプレイヤーは、襲いかかる恐怖に対して抵抗する力を得た瞬間から恐怖から無力な逃亡を図る事を完全に取り止め、いかにしてそれらを退け、相手を倒していくかという思考へと切り替わってしまいます。

 その点『Ib』は操作キャラクターが少女である事、また、「美術館のルール」とされる暴力的な行動が制限される縛りによって、襲い来る作品群に対して成す術もなく逃げ回る事を強いられるのです。これもまた、このゲームの設定とシステムを両立させた素晴らしい点と言えるでしょう。

▲宣伝がてらの『BIOHAZARD Re:2』公式ページ。顔のいい屈強な成人男性と顔のいい女子大生がゾンビや生物兵器相手に大立ち回り。楽しいです。


 ネタバレを控えて『Ib』の魅力を語るのであれば、ざっとこんな物でしょうか。内容に言及するのであれば、登場人物同士の関わりや各EDに関する所感など語れる事はまだまだあります。ですが作品の所感はプレイした貴方に初めて持って頂きたい物なので、ここで全てを語り切るのは避けさせてくださいませ。ネタバレは作品の美味しさを損ないます。

 とはいっても、これは建前半分で、このゲームに関して全てを書き切ろうとした場合はたかだか4000字程度で纏めきれる気がしないという私側の都合も多分に含まれてはいます。だからといって1万やそこらも書いていては、いつまで経っても更新ができないし、それは避けたい。なんともまあ、バラしてみるとかなり自分勝手ですね。

 もっとも、作品紹介のネタが切れてきた頃には、ネタバレ付きで作品についての記事を書き始めようという計画も密やかに立てています。ですから、私がこのゲーム内における特定CPなどについて語る様子が見たければ、ネタ切れを願っていてください。きっといつかその日は来ます。


 それでは皆様、良き日々を。